9月14日
鍵とオルゴール

 トラキアの楽人オルフェウスの名をいただく、三共精機の50弁シリンダーオルゴール。蓋の裏側には、1986年の誕生日に贈られたというメモがある。

 おそろしく精巧な演奏装置が、目のさめるようなすばらしい音を鳴らす。
 1本のドラムに『美しく青きドナウ』と『舞踏への勧誘』の2曲が入っていて、代わりばんこに演奏される。竪琴をかたどった前面スイッチを動かせば演奏のオン・オフも可能だ。
 香箱(ぜんまいを納める箱)の上についた小さなギアが、調速器をより精確にコントロールしていて、オルゴールにありがちな最初と最後のテンポの違いもまったくない。高級家具みたいにがっちりしたボックスがよく共鳴して、音量もじゅうぶん。このオルゴールはオモチャじゃなく、どこから見ても立派な楽器だ。

 右側のコンパートメントにはビロードの内張りがしてあって、宝石やなんかが入れられる。でも、もちろん僕は宝石なんて持ってないから、代わりに古い鍵を入れている。僕が最初に住み、そして何年か前に取り壊されてしまったボロアパートの忘れ形見である。


オルフェウスのホームページ (本物の音には及ばないが)試聴もできる


katz.takahashi@nifty.com